ひじき

朝方まだ夢と現が交錯する最中に、Hくん(夫、ダンナをなんと表記しようか考えてだいぶ前に使っていたこの呼称にすることにした)とコとニが「いただきます」と言っているのが聞こえた。早い朝ごはんだなと思いながらわたしは再び眠りにつき、次にコが部屋でがさごそ何かを探している音で目が覚め、何を探しているの、ポシェット、という会話のあとまた眠りにつき、次に家のドアがバタンと閉まった音で目が覚めた。どこへ出掛けたのかなと思いながら再び眠りにつき、気付いたら午後2時だった。
夢でやけに古い家に住んでいて、次に眠りについたときもその家に住んでいて、次も、次も、午後2時までずっとその家に住んでいた。突然、ふと、たとえば昔好きだった人はこのゴールデンウィークの最終日の午後2時頃なにをしてるのかな、どんな気持ちで一体なにを、明日は仕事だとかまともなことを思いながら過ごしているのだろうか、ショッピングやバーベキューや静かな読書や美味しい飲み物を飲んだりして、まともな休日を過ごしているのだろうかと思った。そしてお腹が減っていたのでとんがりコーンを食べた。少なくともわたしの夫は子供二人を連れ車でどこかへ出掛けていった、とてもまともな休日を過ごしている。彼の昔好きだった人も彼を思い出して、彼は今まともな休日を過ごしているのかな、などと思うこともあるのかなとか、思った。わたしがこのゴールデンウィークの最終日の午後におふとんの上でとんがりコーンを食べていることを誰も想像しないだろうなと、思った。
午後5時に家族が帰ってきたけどふとんから出ることができず、午後8時にまた眠くなって少し眠った。途中娘が明日の授業の準備をするためランドセルを取りに来て目が覚め、またうつらうつらしてたら、マスクと帽子は給食袋に入れたからねと言って部屋を出ていった。

それでさっきトイレの帰りに鏡を見たら、いつもなにかしら得体の知れぬ疲労感やストレスからか常に片方ひっこんでいるまぶたがにょっと出ていたから、そうかこれだけ養生すればわたしがわたしに戻されるんだなって。乾燥ひじきや寒天みたいに。お風呂に浸したら巨大化する謎の物体みたいに。わたしは戻しの時間に一日かかるんだなって。逆に一日かけないと戻らないんだなって。
窓を開けたらまるで霊魂みたいに焼き魚やシャンプーのまともな香りがまとわりつくように入ってきたけど、まぶたの戻ったわたしはハリのある目元を取り戻せたことがうれしくって、ただそれだけでした。